クローバー


女神アフロディテと子供天使のポールとグロリアは 大天使達の住まう宮殿の内にある花畑で座ってじっと地面を見つめていた。

まだ6歳の女神アフロディテの友達として抜擢されたポールとグロリアは10歳の子供天使。
今日は3度目の宮殿訪問の日だった。

「みつけた!!」ポールが嬉しそうに叫んで クローバーをつかんだ手を高々と上に上げて見せた。
「いいなぁ〜」と同時につぶやく アフロディテとグロリア。


その様子を遠くから見守っていた大天使ガブリエルが そっと3人のもとへ近づいて
「何をしていらっしゃられるのですか?」と微笑んで言った。

アフロディテはガブリエルの声など聞こえないようで 必死でまだ地面を見つめている。

「四葉のクローバーを探しているのです」ポールとグロリアが嬉しそうにそう返事をした。
そして ポールは先ほど見つけた四葉のクローバーをガブリエルに見せた。

「これは珍しい」ガブリエルがポールの手の中にある 小さな四葉のクローバーを見つめて微笑んだ。

「それで 先ほどから一生懸命地面をみつめてられているのですね?」そういってガブリエルはアフロディテの肩にそっと触れた。
「ガブリエル!!」ようやくガブリエルがいることに気づいたアフロディテは大喜びだ。

「あのね ポールとグロリアが四葉のクローバーを探しているの。だから 私も一緒に探すの」
と笑顔で返しまた目線は地面に向かった。
夢中になると ひたすら集中するアフロディテ。

「今度学校で押し花のしおりを作るんです。 それで 普通のお花じゃつまらないと思って女神と一緒に四葉のクローバーを探しているのです」
ポールが事情を説明した。
「そうですか 学校の授業ですか いっぱい見つかるといいですね」
とガブリエルは優しくポールとグロリアの頭に触れていった。


「学校?」


その言葉を聞いたアフロディテがふっと顔をあげてポールとグロリアを見た。

「学校って なに?」

そう 宮殿から出たことの無いアフロディテにとっては「学校」という言葉はその日初めて耳にする言葉だったのだ。

「学校というのは 子供天使達がお勉強する場所なのですよ」とガブリエルがそっと答えると
「お勉強? ポールとグロリアは一緒にお勉強するの?
  アフロディテは一人で絵本読んだりしているけど ポールとグロリアは一緒にできるの?」
と質問するアフロディテ。


「しまった」ガブリエルは内心思った。
そうだ アフロディテ様にとって学校は縁がないところだ。そこは子供天使達が集まる場所。
女神アフロディテ様が皆と一緒にご勉学できるはずがないのだ。


ガブリエルの心を知らずに ポールが
「いえ たくさんの友達と一緒に勉強するのですよ。運動もたまにしますし
それに休み時間には皆で遊んだり 食事をしたりするところです」と説明してしまった。

「たくさんのお友達? ポールとグロリアには たくさんお友達がいるの?」

不思議な顔をしてポールとグロリアを見つめるアフロディテ。


「私にはポールとグロリアしかいない・・・・」泣きそうになるアフロディテをみてようやく状況を理解したポールは
すこしおどおどして
「あっ でも ほら 女神は僕達の一番のお友達です。だから この四つ葉のクローバーのしおりができたら
女神にプレゼントします」と言った。

「うん・・・・」 アフロディテは元気なく返事をした。

グロリアは そっとアフロディテの手を握り
「私たちはいつまでも女神のお友達です。ご安心ください」と笑って見せた。


いつもなら ポールとグロリアが宮殿を出るとき 二人が見えなくなるまで手を振り続けるアフロディテの姿は今日は無かった。
かわりに ガブリエルが二人を見送りにでていた。

「ガブリエル様 余計なことを言ってしまってごめんなさい」
ポールが申し訳なさそうに ガブリエルへ謝った。
「いえ 女神はこれから色々なことを知っていかなくてはいけないので どうか お気になさらないように。
また 再来週是非お越しください。 アフロディテ様と一緒にお待ちしております。」
と ガブリエルは優しくポールを抱きしめ二人を見送った。


ポールとグロリアを見送った後 ガブリエルはアフロディテの部屋へと向かった。
扉の前に立ち 
「アフロディテ様」と声をかけてみると 以外にも
「な〜に?」と 元気な声が返ってきた。

そっと扉を開け 部屋の中へ入ってみると 一生懸命お気に入りの大きな熊のぬいぐるみに絵本を読み聞かせている
アフロディテの姿があった。

ガブリエルは少しほっとして
「お上手ですね」と微笑んでアフロディテの隣に座った。

「うん。私も明日から学校行くの。だから 今 一生懸命お勉強しているの」
と けなげなアフロディテ。


ガブリエルは返事をすることができなかった。
今ここで 学校へはいけないと 言ってしまえば泣かれるだろう。
しかし 言わなければ 明日学校へ行くと朝から大騒ぎになるだろう。
女神として生まれてしまったアフロディテ様へ 天使達と同じではないと 自覚していただかなければいけない。
しかし 今 ここで 私の口から 申し上げていいわけもない。


ガブリエルが悩んでいることなど お構いなしに 上機嫌で熊のぬいぐるみに絵本を読み聞かせ続けるアフロディテ。


「何をしているのですか?」
と そこへ大天使ミカエルが執務を終えてアフロディテの部屋へ入ってきた。

「あのね あしたから私も学校行くの」
そう無邪気に答えるアフロディテ。

「学校?」
驚いたミカエルはガブリエルを見た。

困り果てた顔をしたガブリエルは 声を出さずに「申し訳ございません」とミカエルへ伝えた。

するとミカエルは
「アフロディテ これまた突然なことを。明日から学校へ行くことは無理ですよ」
と軽く言い放った。

一瞬で泣き顔になる アフロディテに対し ミカエルは
「今度 学芸会が学校で催されます。それをとりあえず見に行きましょう。
そして あなたがそこにふさわしいかご自分でお考えください」と言った。


ガブリエルはひやひやしながら アフロディテの様子を見ていた。


涙をいっぱいためてぷるぷると震えるアフロディテ
「私も学校行って お友達いっぱい作る」と また つぶやく。


「とりあえず 学芸会に行ってみましょう。
それまでは ポールとグロリアがいない日はガブリエルに遊んでもらいましょう。」
と じっとアフロディテの目を見つめて 諭すようにミカエルは語った。


しばらくして ようやくアフロディテは納得したように
「うん。わかった」と笑顔でうなずいた。


ガブリエルはほっとして アフロディテの頬にキスをした。

そんなガブリエルの肩を ぽんっと軽く叩くミカエル。
「まっ とりあえず しばらくお前は昼間アフロディテと遊んでくれ」と妙な笑顔。
「え? 私の仕事は???」小声でミカエルへ返してみたものの
「そんなの夜にやればいい。 まっ 学校のことを知られてしまったのだから 仕方がないな」
と もう一度ガブリエルの肩を ぽんっとたたいて にやけるミカエル。


そして 満面の笑みのアフロディテ
「学芸会まで ガブリエルに遊んでもらえる」と とても嬉しそうだ。


大天使達の愛を一身に受けてそだった愛くるしい女神アフロディテ・・・
一瞬 小悪魔に見えた大天使ガブリエルだった。








inserted by FC2 system