学芸会


今日は年に一度の学芸会。
しかし 子供天使達の通う 初等科の講堂は静まり返っていた。
講堂といってもかなり大きくオペラハウス並みである。
いつもは 教師達が注意してもざわつく講堂内が 恐ろしいほどの静けさに包まれている。

それもそのはず 今日は毎年観覧する大天使達以外に 女神アフロディテも同席しているのだ。
女神の誕生。そう 天界では数千年ぶり。そしてまだ6歳のアフロディテは大天使達の住まう宮殿から出たことが無く
その姿をみたことのある普通天使は現在数名しかいないのである。
それが なぜか今年は 初等科の学芸会観覧のために 観覧席の真ん中にちょこんと座っている。
はじめて見るアフロディテはなんともやわらかな金色のオーラで包まれている。

子供天使達はともかく 教師である天使達もアフロディテの美しさ 愛らしさに視線が釘付けであるのだ。
唯一平静を保てているのが 先日アフロディテの友達になったポールとグロリアだけであった。
ポールとグロリアも最初アフロディテの美しさに釘付けとなったのだが 一応お会いするのは今回で数回目なので
少々慣れてきていた。


観覧席からポールとグロリアを見つけたアフロディテは手を振ってみた。
そう ポールとグロリアに向かって。
しかし その行動は 講堂に集まる全子供天使達に向けられたと思われ 
「わ〜 女神様!!」という歓声が沸きあがった。
それまで静まり返っていただけに いきなりの歓声に驚いたアフロディテは思わず隣に座っている大天使ミカエルに抱きついた。
またその行動がなんとも愛くるしく 歓声が沸いた。
アフロディテには なにがなんだかわからなかったが ミカエルから
「もう一度 笑顔で手を振ってさしあげなさい」とそっと言われ 恐る恐る小さな手を振って見せた。

またもや 歓声!!

驚くアフロディテ。 しかし よく見ると子供天使達がとても幸せそうな顔で自分を見ていることに気がついた。

アフロディテには 不思議でならなかった。
なぜ 私が手を振っただけで こんなに多くの天使さん達が喜ぶのだろう。
なぜ みんなが私を見つめているのだろう。

その疑問をミカエルへ聞いてみた。

するとミカエルは立ち上がり アフロディテを抱き上げて 手を振って見せた。
同じような 歓声が またも講堂に響き渡る。

そしてミカエルは 
「あなたが女神だからですよ。私とあの子供達そして教師達は 天使。 しかしあなたは女神なのです。
お分かりいただけましたか?」
と 笑顔でアフロディテへ言った。


「女神・・・」


アフロディテは そう つぶやいた。

そう 気がついたときから「女神様・女神アフロディテ様」と呼ばれていた。
しかし 宮廷にいる天使達との違いは何もないと思っていた。
同じような羽 そして 同じような髪の色。
自分も同じだと思っていた。

でも 今 はっきりとした違いを見てしまった。

私が宮殿から出れない それは女神だから
お友達のポールとグロリアが 宮殿に遊びにきてくれるけれども 私は遊びに行けない。
ただ 女神 だから。
何が違うのかわからないけど 女神 という言葉 が違う。

ミカエルも他の大天使達も 天使さん
宮殿に仕えている天使達も 天使さん
そして 今ここに集まっている子供天使達も 天使さん
私だけが 天使じゃない。


アフロディテは 泣きそうな顔をした。


それに気づいたミカエルが
「寂しく思わないで。 あなたは 天界すべての天使達の尊敬を受けるために生まれてきた女神。
天使達の尊敬を受けて そして 美しく成長していく女神。 皆があなたを愛しています。」
そう言って アフロディテの頬に軽くキスをして着席した。


アフロディテはミカエルの膝に抱かれたまま 学芸会を観覧した。
演劇 合唱 学年ごと とても楽しそうだ。
私も 一緒に やってみたい。
そう思った。
でも それも 無理だってわかった。


寂しそうな顔をするアフロディテの手を 横から大天使ガブリエルが優しく握って
「寂しがらないでください。みなが あなたのために一生懸命練習してきて 今日お披露目しているのです。
あなただけのために」と言った。

私だけのために こんなに いっぱいの天使さん達が。

そう思うと すこし嬉しくなってきた。
一緒に遊ぶことも 一緒にお歌を唄うこともできない。 でも こうやって いま みんなと一緒にいられる。
それだけでも幸せ。


徐々にアフロディテの顔に笑顔が戻り 一緒に手をたたいたり 拍手したりしていた。



学芸会の最後に 初等科代表としてひとりの天使が とてもかわいらしい木彫りの人形をを持って観覧席に上がってきた。
それは 女神アフロディテが誕生した際 天界の普通天使達が一生懸命彫った アフロディテの人形だった。

緊張しながらも 代表の天使は
「女神アフロディテ様。本日はありがとうございました。また 是非お遊びにお越しくださいませ」
と言って アフロディテへ人形を渡した。
アフロディテは
「ありがとう」そう笑顔で返事をした。



宮殿へ帰る途中 アフロディテは大天使ミカエルの膝の中で すやすやと眠っていた。
手には大事そうに木彫りの人形をだきしめたまま









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