秘密


大天使達が住まう宮殿。
真夜中は女神アフロディテが就寝しているため静まり返っている。

大天使ミカエルは アフロディテが眠るのを確認して自室に戻った。

一通の手紙と 小包が今日届けられたのである。

手紙の送り主はわかっている。
女神達の住まう宮殿からである。
アフロディテの7歳の誕生日が近くなるにつれて しつこいくらい届く催促状。

その内容は決まって「女神アフロディテを女神宮へ即時返還せよ」である。

返還と言っても アフロディテは誕生直後から大天使達の住まうこの宮殿で暮らしている。
このまま 大人になるまで この宮殿で生活をさせる。
ミカエルはそう約束したのだ。
だから 女神達からの要望はのむわけにはいかない。


約7年前の深夜だった。
何か胸騒ぎがして ベッドから起きだし自室の窓から空を見上げていた。
「女神がお生まれになるかもしれない」
そう思った。
理由などなかった。
ただ直感であった。
しかし 女神の誕生 の際 これほど胸騒ぎが起きたことがなかった。
誰も私の元へ来ないということは 他の大天使達は気づいていないのだろう。

通常女神は 地球の海や 天界の木から誕生する。
そして 女神達の使者が誕生したばかりの女神をお迎えにくる。

しかし 今回は通常では起こりえない事態になりそうだ。
ミカエルは夜空を見続けていた。


しばらくすると 流れ星が西の空に落ちた。
ミカエルはそれを見落とさなかった。

窓を開け ベランダにでたミカエルは 翼を広げ流れ星が落ちた先めがけて飛び出した。

星の落ちた先はすぐに見つかった。
普通天使達の住まう住居のうちのひとつが光り輝いていた。


まさか・・・・

ミカエルは翼を収めて 家の扉を開けた。
と 同時に 
「おぎゃー おぎゃー」と生まれたての赤ん坊の泣き声が家の中に響きわたっていた。

「ミカエル様」
家の主が ミカエルに気づき驚いて声をあげた。
主の後ろの扉から 金色に輝く光がもれていた。

「邪魔する」
と一言だけ声をかけ ミカエルはその扉を開けた。

そこには 主の妻に大事に抱えられている生まれたての赤ん坊がいた。
赤ん坊の体からは 眩しいばかりの金色のオーラが放たれている。
明らかに天使ではない。
これは 女神だ。

ミカエルの姿を見た主の妻は生まれたての赤ん坊をぎゅっと抱きしめ震えていた。
通常の子供を産み落としたのでないことは 妻も理解しているようだ。

女神誕生
それは 待ちに待った誕生であった。
が、普通天使から生まれるとは・・・・・


主の妻は わが子を守るように泣きながら
「ミカエル様・・・・この子は 私の大切な子供です」
と訴えた。
ミカエルはその言葉を聞き
「しかし あなたがお産みになられたお子様は 女神です。」と冷静に答えた。

子を産んだ母の愛はわかる。
しかし 女神を天使が育てることはできない。
それも 今回の女神誕生は数千年ぶりである。

天界でも待ちに待って生まれた女神。
何故天界の天使から産まれてしまったのか。

ミカエルは 震える主の妻をそっと抱きしめ そして妻が大事に抱えている女神を抱き上げた。
泣きじゃくる妻をもう一度抱きしめ
「ご安心ください。女神が大人になるまで私が責任をもってお育てします」
そう ささやいた。

部屋を見渡すと 主以外に4歳くらいの女の子がじっとミカエルを見つめていた。

ミカエルは大きく翼を広げ 主 主の妻 そして女の子をその翼に包み込んで彼らの記憶を消した。
「すまない・・・・しかし 記憶が残っていては女神の成長にも問題が生じる。
それになにより わが子を奪われた悲しみを貴方達に残すわけにはいかないのです。
ですが 信じてください 私があなた方の代わりに宮殿にてお育てします。
記憶はなくなっても いつの日かあなたがたが 女神とお会いできるように天界にてお育てします。」
ミカエルは彼らの心に語りかけ その場から姿を消した。


ミカエルは生まれたばかりの女神を抱きしめ自室に戻った。
数分後 大天使ガブリエルがあわてた様子で部屋へやってきた。

「ミカエル様・・・・」

「・・・・・その女神様はいったい・・・」
ガブリエルは目を疑った。
女神が 大天使ミカエルの腕の中ですやすやと眠っている。

「先ほどお生まれになられた」ミカエルはそう答えてにっこりと微笑んだ。


「それでですか・・・・・」ガブリエルは軽く首を横に振った。
「女神宮の使者が先ほどからお待ちです」そういった直後 ガブリエルを押しのけて 使者がミカエルの前に現れた。

「大天使ミカエル 女神様をお返しください。そのお方は美と愛の女神アフロディテ様です。
女神様は女神宮にお住まいになられることをご存知ないはずがありませんでしょう」
使者は淡々とミカエルへ言うと ミカエルの腕から女神を奪おうとした。

瞬間 ミカエルの体から激しい光が放たれて大きな翼で女神を包み込んだ。

「女神は 私がお預かりした。そなた達に渡すわけにはいかない。これは約束なのだ」
ミカエルは威圧的な光を使者に放ち 使者に恐怖を与えた。
しかし 使者も
「大天使ミカエル 自分が何をいっているのかわかっているのか? そなたは天使。彼女は女神。
引き渡さないのであるのならば それは神への冒涜である。」
と 引き下がらない。


そう 私は大天使 たとえ天界No1の大天使 そう呼ばれていても天使に変わりはない。
だが この女神は私がお預かりすると 家族に約束をしてきた。
子を失った母の悲しみ 苦しみ それを理解できるが故 私がお育てすると約束してきたのだ。

「失礼だが お渡しすることはできない。女神は女神宮だけのものではあるまい。
それに そなたはただの使者ではないのか?この私に意見できる立場であられるのか?」
ミカエルはそう言って更に威圧的な光を放った。

相手は女神の宮殿の使者。
しかし大天使ミカエルに力でかなうわけがなかった。

使者は
「判りました。 それでは 今回のことは女神様達にご報告させていただきますが よろしいですね?」
そういって悔しそうな顔をした。

「好きにすればいい。例え女神達がわが宮殿へいらっしゃられても 私は女神アフロディテが大人になるまで
この宮殿でお育てする。その気持ちに変わりはない」
ミカエルはやけに冷静な笑みを浮かべ そう言い放った。


使者は大天使達の宮殿をあとにした。


「よろしいのですか?仮にも女神様達の使者であられるお方をあのようにお返しして」
ガブリエルは心配そうにミカエルへ言った。

「そなたもアフロディテを抱っこしてみるか?」
ミカエルはガブリエルの質問などお構いなしで アフロディテの寝顔をみて幸せそうな顔をしていた。


「あなたというお方は・・・・・ところで 女神様はどちらでご誕生されたのですか?」
呆れ顔のガブリエルに対し

「私の子だ」
普通に答えたミカエル。


そんなはずはない。
ミカエル様は男性体のはず。
それに執務命の方だから恋人もいらっしゃられないはず。

何かを隠している。

ガブリエルは心の中で思ったが 声には出さなかった。


アフロディテの出生の秘密は一生口にするまい。
これは私が一生守りぬく秘密なのだ。
それが あの家族 なによりも 子を奪われた母へのせめてもの償いだ。


その日から ミカエルをはじめ 大天使達は女神アフロディテに夢中になった。



早いものだ あれからもうすぐ7年が経とうとしている。
ミカエルは女神宮からの手紙を破り捨てた。

そういえば あの時ルシファーも私と同じことを言っていたな。
「女神は天界だけのものではないはず」

離れて暮らし 姿かたちは変われど もし ルシファーが私の立場であったならば
同じようにアフロディテをこの宮殿で育てることを決意しただろうな。

ミカエルはそっと微笑み もうひとつ届いた小包に目をやった。









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