ルシファー 前編


「至急大天使ミカエル様をお呼びして」
普段穏やかな大天使ガブリエルが側近の天使達に声を荒げた。

急いでミカエルの執務室へ走る 天使達。
宮殿内のかつて無いほどの緊張感を感じとったミカエルはすでに執務室の扉の外に立っていた。

「何かあったのですか?」
ミカエルが息を切らし走ってきた天使達へ尋ねた。

「め 女神アフロディテ様が・・・・・至急 ガブリエル様の私室へお越しくださいませ。」
と一人の天使が言ったと同時にミカエルは羽を広げその場から消えた。


ミカエルがガブリエルの私室へ到着したとき アフロディテの遊び相手であるポールとグロリアの二人が
声をあげて泣いている姿が目に入った。
しかし そこにアフロディテの姿は無かった。
「アフロディテは?!」ミカエルはガブリエルへきつい口調で言った。

「申し訳ございません。アフロディテ様が ルシファーに連れ去られました」
ガブリエルはポールとグロリアを守るように後ろに隠し心痛な顔をして答えた。

「ルシファーに?!」ミカエルはガブリエルに歩み寄り
「どういうことだ 説明しろ!!」と怒鳴った。


大天使ミカエルを間近で見た ポールとグロリアは更に恐怖で泣きじゃくった。

年に一度お見かけする大天使ミカエルの優しい顔はそこになく 今は顔を強張らせガブリエルに殴りかかりそうな勢いなのだ。


「この子達と いつものように宮殿の中庭でお花を摘んで遊んでいましたところ 一人の天使が現れたらしいのです。
そして アフロディテ様を抱きかかえてそのまま消えたそうで・・・・」ガブリエルはここまで言って声を詰まらせた。

騒ぎを聞きつけた大天使ラファエルもガブリエルの私室へ入ってきた。

「なぜ ルシファーだと判ったのですか?」と 少し冷静な口調で 大天使ラファエルが尋ねた。

「はい。それが この子達に 自分はルシファーであると伝えそして しばらくお預かりすると言ったそうで」
ここまでガブリエルが言ったとたん
「なぜ とめられなかった!!10歳ともなる子供天使がルシファーを知らないはずが無いだろう!!」
ポールとグロリアを責める大天使ミカエル。
「ミカエル様 子供を責めても仕方がありません」となだめるラファエルの言葉にようやく
ポールとグロリアが恐怖におののいている様子が理解できたミカエル。

「嗚呼 すまなかった。」と ポツリとつぶやいて 頭を抱えながらソファーに腰掛けた。


どうしたものか
なぜ ルシファーが・・・・・


「ルシファー」 久しく天界では聞かない名前であった。
堕天使の称号としてもちいられる 名前。
しかし 実ははるか昔 大天使ミカエルと同等の力を持っていた 大天使ルシファーのことなのである。
ある日何を思ったのか 神 に攻撃をし そして天界を追われ魔界の主となったルシファー。
そのとき天使の白い羽は黒い烏のような色に変わり そして ねじれた角をもつという。
ルシファー 魔界での 名はいわずと知れた 「サタン(魔王)」である。


天使が魔界に直接行くことはできない。
直接踏み入った時点で 二度と天界には戻れない。


どうすればいい・・・・・


ルシファーが大天使時代一番親しくしていたのは 他でもない自分だ。
例えサタンと名を変え その姿すらも変えたルシファーが 女神を誘拐したところで何か徳でもあるのであろうか???
「しばらくお預かりする」・・・・
ということは 返してくれるつもりはあるのだろう。

昔のルシファーならば 返してくれる。
でも 今は サタンと呼ばれる魔王・・・しかし お互い知らないわけではない・・・・
ここは ルシファーの言葉に賭けてみよう。
そう ミカエルは考えた。


「いかがいたしますか? お時間は掛かりますが 魔界入り口までならば 道をおつくりすることは可能ですが」
と 冷静な大天使ラファエルの問いに
「いや その必要はない」と意外な返事をミカエルはし
「私が今からルシファーのもとへ行くから」
そう言い放った。


「直接魔界へなど降りたら いくら貴方様でも 無事ではいられません!!」
さすがにラファエルが止めに入った。


そんなラファエルの言葉をよそにミカエルは自信に満ちた笑顔で
「確かに直接魔界へ入れば 天使としての姿形を失ってしまう。だが 地球に送るようなビジョンを送ることは可能であろう。」
と言った。
「しかし 地球へビジョンを送るのとはわけが違います。場所は魔界です。すべての力を奪われる可能性だってあるのですよ」
ラファエルは必死でミカエルを止めようとした。

その瞬間 ミカエルは大きく美しい羽を広げ その体から眩しいほどの金のオーラを出した。
天界のあらゆるエネルギーを体にまとわせ 美しく光る姿を見たものは この天界でも 大天使以外いなかったのである。
威圧感のある光に驚いた子供天使達を含む天使達が一斉にミカエルの側から離れた。


「もしかしたら これはミカエル様を魔界へおびき寄せるための罠かもしれません。どうかおやめくださいませ。
今回の責任を取って 私自らが魔界へ参ります。」
子供天使達をかばっていたガブリエルが ミカエルの前に跪き叫んだ。
「いや 先ほどは 取り乱していたが もう大丈夫だ。
ガブリエル そしてポール グロリア 責めたことを許してくれ。
私は大丈夫だ。直接魔界に入るわけでは ない。ただビジョンを送り そしてアフロディテをつれて帰ってくるだけだ。」
と余裕の笑顔を見せた。
「確かに 魔界へビジョンを送ったことはいまだかつて無い。
ただ 女神が そこにいる。きっと 女神のパワーによって 私は救われるでしょう」
そう言ってミカエルは 上着についている十字架に両手をあて目を閉じた。


後編へ続く










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