宝物


パタパタパタ と かわいらしい足音が大天使達の住まう宮殿の中でこだましていた。
女神アフロディテが上機嫌で大天使ミカエルの執務室へ向かっているのだ。
女神と言ってもまだ6歳の幼いアフロディテ。
愛くるしさが体全体から滲み出ている。

トントン
ようやくミカエルの執務室へたどり着いたアフロディテは 礼儀正しくドアをノックしてみせた。
いつもならば「ミカエル!!」と声に出すと同時に扉を開けてしまうのだが
今日のアフロディテはちょっと違っていた。
「誰ですか?」という室内からの声に対して
「アフロディテ」とちゃんとお返事もできた。

いつもと違う様子に ミカエル自身が扉を開けた。

そこには 満面の笑みで得意げに立っているアフロディテが居た。
ミカエルはとても優しく微笑み
「いい子ですね。ちゃんとノックできましたね」そう言ってアフロディテを抱き上げ室内のソファーへアフロディテを座らせた。


「ミルクを少し温めて持ってきて ちょっと砂糖を入れて」ミカエルは執務室に居る側使いの天使へ言った。
アフロディテが来たときはいつも同じ飲み物をお願いしているのだが 「いつもの」とは言わないミカエル。
天使は笑顔でうなずきミルクを温め始めた。


「アフロディテ?」
部屋に入ってからも 黙ったまま満面の笑みを浮かべているアフロディテを見てミカエルが声をかけた。
アフロディテは 声も出さずに 首から掛かった花の首飾りを指差した。

そうか 今日は アフロディテの遊び相手が来た日だったな。
大天使ガブリエルへ依頼したまま そのまま放置しておいたから すっかり忘れていた。
「とても綺麗でかわいいですね。ご自分で作られたのですか?」
ミカエルは笑顔で聞いてみると
「ちがうよ」と やっとアフロディテが声を出した。
そして
「これはねグロリアが作ってくれたの。あっ グロリアはね今日からお友達になった天使さんなの。
それでね それでね ポールも居て あっ ポールも今日からお友達になった天使さんなの。それでね・・・・・」
とりあえず 今日あったことを全部一気に話そうとしているのだろう。


と ここで タイミングよくミルクが出てきた。
「落ち着いて ミルクを飲んで ゆっくりとお話しましょうね」
ミカエルは笑いながらアフロディテを膝に座らせた。

「グロリアとポールとお友達になったのですか?」
ミカエルが優しくたずねると ミルクを飲みながら 「うん」とうなずくアフロディテ。
今はミルクに夢中のようだ。毎日見ていても飽きないかわいいアフロディテ。


ミルクを少し飲んで落ち着いたアフロディテは コップをミカエルに渡し
「グロリアがね これを作ってくれたの」
とまた得意げな顔をして 花の首飾りを指差して笑った。

よほど嬉しかったのだろう。
この様子だと ポールとグロリアが帰ってから急いで執務室まで走ってきたのだろう。
やはり ガブリエルに相談してよかった。

「それは よかったですね? 仲良くなれましたか?」というミカエルの問いに
「うん お友達になったの。かくれんぼ しようって言ったら ポールが広すぎて隠れる場所がないって言ったの。
そしたら グロリアがお花の首飾りを作ってくれたの」
と 嬉しそうに説明をするアフロディテ
「それでね グロリアがお花の首飾りの作り方を教えてくれたから 私が作ったお花の首飾りはグロリアにあげたの」


「・・・・・・」


ミカエルは知っていた。
まだ6歳のアフロディテ。自慢じゃないが何度宮殿に仕える天使達が教えてもまともな花の飾りを作ったことがない。
そして とてもお世辞でも綺麗とはいえない花の飾りを何度もミカエルはプレゼントされていたのだ。
きっと 今回もとてつもない花の首飾りを仕上げたのだろう。


「・・・そ それは良かったですね。 グロリアは喜んでいましたか?」
ちょっと引きつった笑顔でミカエルが聞いてみると
「うん 宝物にするって喜んでいた。」
アフロディテは相変わらず得意げである。


そりゃそうだろう どんなとてつもない花の首飾りであろうと 女神が作ったものを「いらない」とは言えないだろう。
なんとかわいそうなグロリア・・・・・


「今度はミカエルの首飾りを作ってあげるね」と これまた得意げに言ったアフロディテに 
「楽しみにしていますね」と言葉を返したものの 顔の引きつりだけは治まらなかった大天使ミカエルであった。



とてつもない形の お世辞でも綺麗とはいえない花の首飾りをもらったグロリアは帰宅後すぐに
自宅の棚の上においてじっと笑顔で眺めていた。
「女神が作ってくれた 花の首飾り。 これは記念にドライフラワーにしておこう」
そう心の中でつぶやきながら。
 










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